2022年10月14日
ヨコハマ市民自治を考える会/新たな中期計画検討部会
はじめに
私たちは2019年8月22日、林前市長がカジノ誘致を正式表明して以降、それを撤回させるための市民運動に参加する中、2020年11月、「ヨコハマ375万人市民自治をどうする!?」というシンポジウムを開催。その直後に立ち上げた市民組織です。その多くが市長選挙では「カジノ反対と市民自治」の立場を明確にした山中市長実現のため運動に参加しました。
山中市長誕生は、横浜市民の「民意の勝利」であり、市民自治の復権と評価しています。以降、「住み続けたいまち横浜」という新たな市政に大きな期待を持ち、その実現のため、市民自治を発展させるべく活動してきています。
私たちは、山中市政になって初めて市政の基本方向を打ち出す「中期4カ年計画」に大きな関心と期待を抱き、「新たな中期計画検討部会」を設け、学習を重ねてきました。
しかし、ようやく提示された「中期計画の基本的方向」には、率直に言って期待はずれ、幻滅さえ感じました。その理由は、部会として提出した「意見」で詳しく述べましたが、随所に「子ども」重視、「誰もがWELL-BEING」などの文言は多用されていましたが、「市民の命とくらし優先の市政」への転換が明確になっておらず、それを実現する方策、とりわけ財政の裏づけがされていないからでした。
私たちが、その点にこだわったのは、「中期計画」に先行して「財政ビジョン」が市会で議決され、「歳出改革」を大胆に進めるとされていたからです。
どんな市政であるかは、「戦略」や「政策」に付けたキャッチフレーズやお題目ではなく、「財政のつかいみち」で決まります。「市民の命とくらし優先の市政」というならば、財政が市民のくらしに重点的に配分されなければなりません。これまでのように大規模な開発に振り向ける財政は削られねばなりません。
こうした観点を最も重視して、私たちは「中期計画(素案)」を検討しました。さらに、それを実現するうえで、不可欠となる「市民自治による市民のための市政推進」が明確になっているかどうかも重視しました。
以下に、検討結果に基づいての意見を述べます。
目次
はじめに
1、中期計画(素案)についての基本的評価。
2、だが、「基本戦略」そのものにも、「38の政策」等にも問題点や課題が含まれている。
3、「中期計画」を実際に推し進め、貫徹するには、市政運営全般に市民自治を組み込まなければならない。
4、「横浜DX戦略」は地方自治、個人情報保護を堅持、貫くべきである。
5、炭素ゼロは、地元企業、団体、市民との共同なしに実現できない。
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中期計画(素案)が20年後のありたい都市像を「明日をひらく都市」と設定、それを実現するため、今後4年間にとどまらず、10年間にわたって追求する「基本戦略」を「子育てしたいまち、次世代を共に育むまちヨコハマ」と新たに打ち出したこと、その実効性を保障するために、財政の裏づけを明記したことは、大きな特徴である。
①第一に、「基本戦略」は、なによりも「子育て世代への直接支援」を起点として、「コミュニティ生活・生活環境づくり」→「生産年齢人口流入による経済活性化」→「まちの魅力・ブランド力向上」→「都市の持続可能性」の「好循環」をつくることによって、「明日をひらく都市」を実現すると明示した。
これまでの細郷、高秀、中田、林市政が掲げた基本的「戦略」と比較すれば、その意義は明らかである。これまでの「戦略」は基本的に、「経済活性化」を起点とするものであった。たとえば林市政1期目、2010年策定の「横浜版成長戦略」は、「活力ある横浜経済(成長産業の強化)」を通じて、「市民生活の課題解決に取り組んでいく」としていた。続く林市政3期目、2018年策定の「中長期的な戦略」は、「経済活性化」起点の考え方をさらに突出させた。「力強い経済成長と文化芸術創造都市の実現」(戦略1)、「人が、企業が集い躍動するまちづくり」(戦略4)を高く掲げ、「成長と活力を生み出す都心部」などの実現に向け、財政を積極的につぎ込んだ。「カジノ導入」策は、その究極の選択と言える。カジノの寺銭で横浜経済を大いに潤し、法人市民税を超える860~1000億円の税収があがり、「豊かな市民生活を確かなものにする」財源を確保できるなどと大いに触れ込んでいた。それが市民多数の反対に遭い、頓挫した。
新たな中期計画を策定しようとする今、検証されなければならないのは、これまでの「経済活性化」を起点とする「戦略」そのものである。その結果、果たして「市民生活の課題」は解決されたのか?まったく解決されていない!類似政令市との比較、県内各市との比較からも明らかだが、子どもの医療費はいまだ無償化されておらず、負担が続いている。日本最大の基礎自治体と誇り、個人市民税の税収比がもっとも高い横浜市が、中学校給食さえ受けられない恥ずべき姿をさらしている。市民意識調査では横浜を住まいに選んだ理由のうち「子育ての環境が整っているから」は7・2%にとどまっており、それを理由に転出した市民もいる。
検証の結果はそれにとどまらない。対照的に、大規模開発に充てられた一人当たり普通建設事業費は、政令市比較で最大となっている。これは、これまでの「経済活性化」を起点とした「戦略」が、「今日の財政の厳しい状況」をもたらした主たる原因、根源であることを端的に示すものだ。
総括すれば、「経済活性化」を起点とする「戦略」では、トリクルダウンで「市民生活の課題」を解決できなかったばかりか、財政も厳しくなって、悪循環となり、持続不可能になってきたということである。これまでの「戦略」は破綻したといえる。
したがって、横浜市にはそれに代わる「戦略」を打ち立てることが求められている。時代はまさに歴史的転換期にあり、コロナパンデミックを経て市民は、切実に新たな市政のあり方を求めている。
新たな中期計画は、それに応えるものでなければならない。そうした角度からみて、中期計画(素案)に今後10年間の「基本戦略」を「子育てしたいまち、次世代を共に育むまちヨコハマ」と設定し、「子育て世代への直接支援」を起点とする好循環の道筋を明記したことは、破綻した「戦略」に代わる新たな「戦略」を示したものとして評価できる。
また中期計画(素案)には、「基本戦略」に沿って、当面の4年間に取り組む「38の政策」が提示された。山中市長の「3つのゼロ」などの主要公約も盛り込まれている。中学3年までの小児医療費助成は「所得制限や一部負担金を撤廃し、23年度内に無償化」する(政策1)、出産費用については、国の動向を見極めながら、「無償化を含む負担軽減策を実施する」(政策1)と明記されている。
また、75歳以上の敬老パス無償化については「持続可能な地域の移動サービスの検討を進める」(政策28)と明記されている。
中学校給食については、デリバリー型給食を「原則利用」として「選択制」から「全員給食」実施に向け、26年度には「供給体制を完了」(政策5)となっている。
中期計画(素案)が、さらに市民や各界の要求と知見によって豊富化され、広範な市民の共感を得られるようなものとして策定されんことを期待したい。
➁第二に注目したのは、「基本戦略」の実効性を担保する財政の裏づけが明記されていることである。
素案には、「財政ビジョン」、「行政運営の基本方針」との関係にも触れ、 (P.11)と書き込まれている。
さらに、「計画期間中の財政見通しと収支不足への対応」の「(3)計画期間中の財政見通し」には、「中学校給食の喫食率向上や供給体制の確保に向けた準備、小児医療費助成の制度拡充、敬老パスの75歳以上の無償化についての現時点で推定される事業費240億円を見込んでいる」(P.189)と明記している。
われわれは、「中期計画の基本的方向」についての意見の中で、中期計画の策定に先んじて「財政ビジョン」が策定されたことなどから、「明日をひらく都市」像がどんなに魅力的に描かれ、「WELL-BEING」なるキャッチフレーズをつけられていても、それを実現するための財政が保障されていなければ、絵に描いた餅に終わると厳しく批判した。
しかし、素案に書き加えられた財政の裏づけを示す上記の一文は、そうした危惧を完全ではないにしても、ある程度払拭するものであった。
こうして中期計画(素案)は、「基本的方向」の問題点を改め、これまでの「経済活性化」を起点とする「戦略」を転換し、「子育て世代への直接支援」を起点とする新たな「基本戦略」を軸に据えたものとなった。山中市長の「3つのゼロ」など主要公約も一定「政策」に盛り込まれ、財政の裏づけも明記された。
そうなったのは、「基本的方向」についてのパブコメが、政策局の予想以上に評判が悪く、批判的意見が多かったこと、寄せられた意見の48%が「子ども」にかかわる要求だったことなど、市民の声を受け入れざるをえなくなったからであろう。
そういう意味で中期計画(素案)は、山中市政が「命と暮らしを優先する市政」への転換という市民の願いに応えようと第一歩を踏み出したものと、期待を込めて評価したい。
2、だが、「基本戦略」そのものにも、「38の政策」等にも問題点や課題が含まれている。
これまでの「経済活性化」を起点とする戦略を転換するような「基本戦略」だけに、これまでの戦略を進めてきた勢力からの厳しい批判にさらされるのは避けられない。踏み出した第一歩を確かなものにし、第二歩につなげるために、何点か補強的意見を提起したい。
①「基本戦略」そのものの問題点と補強意見。
素案(P.11)には、「『基本戦略』への貢献度が強い策を優先して実行していくこと」に続いて、「『行政運営の基本方針』を踏まえた行政サービスの最適化(事業手法の創造・転換)をセットで進め、将来の横浜市民を支える財源もしっかり確保していきます」という一文がある。
・問題点の一つは、この文章の限りでは、こども対象の予算は優先するが、他の扶助費、障碍者や生活保護などや市民団体向けの補助金の削減、市民が利用する使用料、利用料金、手数料などの負担増、さらなる非正規化、民間委託化による人件費削減等々、他の市民サービス削減につながらないか危惧が残る。
それを解消するために、他の市民サービスにしわ寄せしないことを明示すべきである。
・もう一つ、こちらがより大きな問題点だが、「経済活性化」のための新規大規模開発、それへの財政投入に余地を残していることである。
横浜の経済界を代表する横浜商工会議所は「カジノ誘致」最大の推進勢力であった。そこが来年度の予算に向け「横浜市政に関する要望書」(9月)を提出している。「新たな経済成長ビジョンの策定」と併せ、山下ふ頭再開発に関しては「統合型リゾート(IR)に匹敵する大型プロジェクトによる新たな産業振興」を、さらに旧上瀬谷通信施設跡地活用については「複合的な集客施設の推進」「新たな交通システムの早期整備の着手」をなど、いくつもの「経済振興」策が盛られている。
市会の多数を占める野党、とりわけ自民党が、それらの要求を突きつけ「基本戦略」を骨抜きにしようと攻撃を仕掛けてくることが大いに考えられる。この攻撃に対して有効に反撃し、打ち勝たなければ、「子育て世代への直接支援」を起点とする「基本戦略」は堅持できず、好循環は貫徹できない。従来の「経済活性化」を起点とする市政運営に逆戻りしかねないリスクを抱えているのである。
そうしないためには素案の中に、新規の大型開発についてはこれまでの「費用対効果」による検証を元に、適切な基準を設定し、「大型開発を規制する」条項を設けるべきである。これは、「子育てしたいまち、次世代を共に育むヨコハマ」の「基本戦略」を確かなものにするために必要なことである。
かつて飛鳥田市政は「六大事業」を提起し、その後長期間、都市(まち)づくりを導いたが、「乱開発」「公害」など市民生活に影響する開発に対して国に先んじて厳しい規制をかけたことが一つのカギであった。時代は変わったが、その経験には学ぶべきところがあろう。
➁「戦略1」の「政策5」中学校給食は、市民が切望する学校調理方式の「できたて・温かい」給食に改めるべきである。これは、「子育て世代支援」の核心部分の一つである。
素案では、選択制から「全員実施」に転換すると書き込まれたが、実施方式については、「デリバリー型」となっている。これに対して学校調理方式を求める市民の要求は根強く、運動が続けられている。教育委員会の生徒・保護者アンケートでも、「温かさ」を求めているのが最多であった。しかし、デリバリー型を「最適」とした「実施方式の検討にあたっての項目・考え方」には、そのような肝心な生徒・保護者、市民の要求は「検討項目」に一切入っていない。もっぱら供給体制や民間事業者、とりわけ財政負担など実施する側の事情ばかりが「検討項目」となり、偏っている。
しかし、大阪市ではいったんデリバリー型で出発したものの、評判が悪くわずか2年で学校調理方式に替えたという事例も出ている。この教訓は生かされねばならない。いったんデリバリー型で出発してから、学校調理方式に替えるとなると財政負担は倍加する。
さらに「子供の貧困と給食問題」を研究した専門家は、中学校から高校にかけての時期がもっとも貧困率が高く、中学校給食は「栄養格差」を縮小し、よりよいコミュニケーションをつくるうえでも最適な政策である、と提言している。
山中市長は、「子育て世代への支援」を「市政の1丁目1番地」と言っており、中学校給食のあり方は、その核心部分である。したがって、この問題は、「基本戦略」の好循環を首尾よく回すうえでのカギであり、市民の願いに応える市政へ力強く転換できるか否かの試金石となろう。市民を信じ、決断すべきである。
3、「中期計画」を実際に推し進め、貫徹するには、市政運営全般に市民自治を組み込まなければならない。
①中期計画(素案)には、どこにも市民自治の重要性がきちんと位置付けられていない。
われわれはカジノ誘致反対運動と市長選を通じて、市民自治の重要さを再認識した。山中市長誕生は、横浜市民の「民意の勝利」であり、市民自治の復権と評価した。
したがって、中期計画(素案)の中にどのように書き込まれているか、大きな関心をもって読んだ。ようやく見つけたのが、新しく加えられた「行財政運営」の大項目の中の、「行政運営3」(P.133)として「住民自治の充実と協働・共創による地域のさらなる活性化」に書かれている。そこには「ここでいう住民自治の充実は『横浜特別自治市大綱』における『区における住民自治の強化』(住民代表機能、住民参画と協働の充実)を指します」と小文字の「注」がある。驚くなかれ、それだけである!
これは、中期計画(素案)の重大な欠陥と言わなければならない。
カジノ誘致を強引に進めた林市政の市政運営は、かつてない市民の抵抗に遭い、市長選挙を通じて挫折させられた。今回の中期計画には、「カジノの蹉跌」ともいうべき横浜市政史上かつてない挫折を経て、どのように市政運営を再構築するか問われている。自分たちの声が反映し、信頼に価する市政運営になるか、市民は注視している。
しかし、9月13日に公表された「横浜IRの誘致に係る取組の振り返り」(最終報告)は、およそ市民を納得させるものではなかった。市長(行政)が自公与党(議会)と一体となって「二元代表制」を振りかざして、市民の広範な声、直接請求をないがしろにし、直接民主主義を踏みにじった。市民との信頼関係を破壊した。この誤りを率直に認め反省してこそ信頼は回復するが、それが見えない。「主権者たる市民の声を聞き、市民自治を尊重、発展させてこそ、市政は成り立ち、前に進む」というのが引き出さねばならない教訓だが、弁解に終始している。だから、中期計画(素案)に市民自治の重要さが位置付けられていないのだろうが、それにしても新中期計画文書に「カジノの蹉跌」の痕跡さえ見いだせないのは、どうしたものか。
他方、山中市長は、選挙戦で「カジノ反対」と「市民自治」を掲げた。当選後の初議会での所信表明、「これからの市政の方向について」の中でも、「市政運営には、市民の皆様との信頼関係が欠かせません」「市民の皆様の声を聞き、市政に生かす、そのような現場主義の徹底とともに、地域で活動されている皆様との協働による住民自治を実現してまいります」と市民自治の重要さを強調している。
これは、「カジノの蹉跌」を経験した横浜市の新たな市政運営の指針とすべきものである。
以上から、中期計画(素案)の「行政運営」の中に、「カジノの蹉跌」から引き出した教訓を反映させ、これからの市政運営の基本として「市民自治を尊重し、発展させ、共に市民のための市政を推進する」と書き込む必要がある。
さらに、「基本姿勢」(P.14)の中にも、重視する視点として書き加えるべきである。中期計画の「38の政策」を取り組むにあたっての「基本姿勢」としなければならない。この視点は、「協働・共創の視点」とは本質的に異なったものである。
➁中期計画の「基本戦略」「38の政策」を生きた市政の中で貫くには、市政運営全般に市民自治を尊重、発展させ、その力に依拠することが不可欠である。
クラウゼヴィッツは、「戦略を立てることはたやすいが、実戦のなかでそれを貫くのは難しい」と言っている。
それに模していえば、「中期計画」の大戦略・「明日をひらく都市」、基本戦略・「子育てがしやすいまち、共に次世代を育むヨコハマ」、「38の政策」を策定するのはたやすいが、それを実際の市政運営のなかで貫くことは、「難しい」ということになる。
中期計画(素案)のパブコメを経て、原案を作成した後の事態を具体的に想像してみれば、それは容易に分かる。
まずは、12月市会に原案がかけられれば、「子育てがしやすいまち、共に次世代を育むヨコハマ」や市長公約にかかわる政策に対して、多数野党、とりわけ自民党議員から、財源問題を口実にした攻撃が浴びせられるだろう。あるいは、山下ふ頭の再開発、旧上瀬谷基地跡地の大規模開発を推進せよとの攻勢もかけられるに違いない。来年の統一地方選挙を前に、山中市政の手による初の中期計画に対する攻撃が、激しさを増すのは必至である。
他方、すでに庁内では、策定中の新中期計画を前進させるうえで最初の関門である来年度の予算編成が始まっている。市長から「基本戦略」を念頭に置くようにとの「市政運営の基本的考え方」が発出され、総務局、政策局、財政局の局長連名による「歳出改革の基本方針」も出されている。しかし、局「縦割り」の悪弊を打ち破れるか簡単ではない。
これらは、ほんの一、二の例だが、策定した中期計画がさまざまな批判、抵抗にさらされるのは避けられない。
こうした生きた市政運営の中で、中期計画を堅持し、貫こうとすれば、市民自治を尊重し、発展させ、その力に依拠する以外にない。歴史的転換期の変化激しい横浜市を取り巻く環境、人口減少、高齢化、格差が拡大する社会での利害対立の激化─実際の市政は、こうした情勢下で運営しなければならないのである。ぶれないで市政を運営していくには、市民の信頼と支持、市民自治の力こそが確かな頼りとなる。
人口377万人を超す日本最大の基礎自治体は、日本でもっとも市民の声が市政に届きにくい自治体である。この現状を変えるための制度面の改革は必須で、市民自治を発展させるうえで最大の課題である。これを解決するには、飛鳥田市政以来の経験を総括し、期間中の適切な時期に市民と一緒に議論し、合意をつくるようにしなければならない。
当面は、それを待つことなく、市政運営全般に市民の声がよりよく反映し、市民自治が貫かれるように進めなければならない。
4、「横浜DX戦略」は、地方自治、個人情報保護を堅持、貫くべきである。
中期計画(素案)には、「基本姿勢」の2番目に「DX推進とデータ活用・オープンイノベーションの推進の視点」が書かれ、さらに「行財政運営」、「大都市制度」と並んで「DXの推進」という新たな大項目が設けられた。
「中期計画におけるDXの役割」(P.154)として、「9つの戦略、38の政策のすべてにおいて、DXの考え方に根差した取り組みを進めます」と書いている。続けて「デジタル技術を活用して生み出す新たな価値やサービスにより、これからの生活スタイルや都市の魅力を、日々のあらゆる場面で実感できるまちをつくっていきます」とある。
政府は「デジタル革命」での周回遅れを挽回しようと、「デジタル田園都市国家構想」を掲げ、全国の自治体にDX化を急がせている。受けて横浜市でも7月に「横浜DX戦略」素案が公表された。それによれば、中期計画期間をDX実現に向けた“First Step(2022~25年)”と位置づけ、「7つの重点方針」で取り組むとしている。スマホを使っての行政手続きなど「デジタルの恩恵を実感できる取組や成功事例の見える化などを中心に取り組む」としているが、問題なのは、そのための「推進体制や仕組みなどの土台作り」である。
詳しくはパブコメで述べたが、基本的方向にかかわる2つの問題点についてだけ意見を述べ、素案に反映させていただきたい。
- 「データ基盤の整備」に関して、「住民情報系システム」の国による「標準化・共同化」が進められ、対応を検討することになっている。国による「標準化・共同化」は、地方自治体の自由度を低下させ、団体自治を制約し、対応いかんでは地方自治の破壊につながりかねない。
したがって、標準化基準の策定に当たっては、地方自治の本旨、団体自治の侵害を許さない仕組みを確保すると同時に、これまで横浜市で積み上げてきた独自施策が継続できるように要請しなければならない。
- 個人情報保護に関してだが、法律、条例の厳密な適用、強化が重要になっている。これからますます膨大な市民の個人情報が、市によって収集・活用・流通することになる。そうなればなるほど個人情報保護のための規制は強いものでなければならない。
「デジタル化の推進が国民を監視するための思想信条、表現、プライバシー等に係る情報収集の手段として用いられることのないようにすること」、「個人の権利利益の保護を図るため、自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できること、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求めることができること」など、必要な措置が講じられるようにしなければならない。
5、炭素ゼロは、地元企業、団体、市民との共同なしに実現できない。
中期計画(素案)の「基本姿勢」の4番目に、「脱炭素社会実現の視点」が位置付けられ、「政策18」に「脱炭素社会の推進」、「政策19」に「持続可能な資源循環の推進」が提示されている。
「政策18」には、2050年に脱炭素社会を実現するとして、「2030年度に温室効果ガス削減目標50%(2013年度比)を達成」と明記している。だが、この容易でない目標をどうやって達成するのか、示された方策は電源構成も、進め方も市民の願いに背くもので、目標達成にも本気度が見られない。
重大なのは政府が、ウクライナ戦争の影響を口実に、これまでの「新増設・建て替えはしない」方針を大転換し、原発推進に舵を切ったことである。再稼働済み10基の稼働確保、設置許可済みの原発再稼働、運転期間の延長など既設原発の最大限活用に加え、次世代原発の開発・建設を打ち出し、年末までに結論をまとめるようとしている。
この動きを容認すれば、「脱炭素社会」どころか、危険極まりない社会に踏み入れることになる。377万人超の市民の命と安全を預かる横浜市として、政府の原発推進方針への転換に強く反対する態度を表明し、原発に頼らない太陽光や風力など再生可能エネルギーによる脱炭素社会の実現を訴え、推進しなければならない。
もう一つ、「横浜市脱炭素社会の形成の推進に関する条例」には、「市・市民・事業者がそれぞれの責任において脱炭素社会を目指すことが求められている」と書かれている。しかし、「関連する産業を新たな成長産業として発展させる」、「市は新たな技術革新のプラットフォームとして積極的な役割を果たす」と強調されている。条例によって、これまでの大企業事業者中心の支援、地元企業軽視、市民不在の進め方が強まるのではないか、原発、火力発電の大規模中央集中型システムを転換しない限り、その可能性が高まる。この進め方の延長で、削減目標は達成できまい。
われわれは、大規模中央集中型システムと根本的に異なる地域に根差した分散ネットワーク型システムへの本格的移行を検討することを提案したい。たとえば、再生エネルギーの地域資源を最大限活用して発電、蓄電、配電、さらには省エネルギー事業を行う公社を市主導で創設し、ここが中心となって市内各地の中小企業、協同組合、NPO法人、市民の参加と協働を強力に推し進める。地産地消のエネルギーシステムを軸にした地域循環型経済の創出である。
この構想の肝は、市民各界の積極的理解と参加、協働の力を最大限結集できることだ。それなしに、2030年度までの削減目標の達成は、願望に終わるに違いない。
(おわり)
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