2022年6月29日
ヨコハマ市民自治を考える会・新たな「中期4か年計画」検討部会
はじめに
カジノ導入に反対して市民運動に参加した。その中で2020年11月、「ヨコハマ375万人市民自治をどうする!?」というシンポジウムを開催した後、「ヨコハマ市民自治を考える会」を立ち上げる。市長選挙では「カジノ反対と市民自治」の立場を明確にした山中市長実現のため運動に参加。これは、横浜市民の「民意の勝利」であり、市民自治の復権と評価した。
以降、「住み続けたいまち横浜」という新たな市政に大きな期待を持ち、その実現のため、市民自治を発展させるべく活動してきている。
そうした中、昨年12月23日に港湾局から「内港地区の将来像の検討」と「山下ふ頭再開発の新たな事業計画策定」に向けた意見募集等が開始された。
カジノ誘致を阻止したばかりの市民にとって、この港湾局による意見募集の開始は、唐突さ、募集の仕方を含め、疑念を生じさせた。われわれは、市民自治をないがしろにする意見募集と受け止め、どのように対処すべきか、3回の学習会を開いて議論し、検討してきた。
「ヨコハマ市民自治を考える会」・当部会の学習会では、1回目に飛鳥田市政以来の横浜市の都市(まち)づくりの歴史のなかで「都心臨海部再生マスタープラン」を検証した。2回目、3回目には横浜の都市づくりに参画された北山恒横浜国大名誉教授、野田邦弘元市職員で横浜市大客員教授からご経験を踏まえた知見を学んだ。そのうえで、これから50年後の都心臨海部の将来像をどうすべきか検討してきた。
そして5月29日から開催された意見交換会に応募し、検討結果の一端について発言した。
以上を踏まえて、当部会としての意見を述べたい。
1、意見交換会に参加しての感想
「意見募集」の一環として開催された「意見交換会」に参加しての感想の第1は、この問題についての市民の関心の高さだ。ワークショップ形式のグループ討議では、若い世代を中心に山下ふ頭をどうしたいか、さまざまなアイデアが次々と出された。参加者が200人の定員を超えたことを含め、横浜をこうしたいという思いが強いことを実感した。カジノ誘致を止めたことによって、あらためて都市づくりについての市民の関心が高まっている証左と推測している。それは「都市デザイン50周年横浜展」の参加者数が予想を超え、1カ月延長開催したことにも表れている。
それにしては、「意見交換会」の持ち方は、市民の都市づくりにかけた思いを十分に受け止め、今一度市民と一緒に横浜の新しい都市構想を議論しなおし、都心臨海部の重要拠点としての山下ふ頭をつくっていくという点で、問題があると感じた。これが2点目の感想。
具体的には、①内港地区の将来像のイメージについて(40分)、②将来の山下ふ頭のまちづくりのテーマについてと、③導入施設のイメージについて(80分)でグループ討議が行われたが、これでは議題が狭すぎる。時間の配分を含めて、山下ふ頭の再開発をどうするかのアイデアを出すことに発言が集中せざるをえなくなる。
詳しくは「意見その3」で述べるが、山下ふ頭にカジノを含むIRを導入するというのが、林市政下で策定された「都心臨海部再生マスタープラン」(2015年2月)であった。そこには大規模集客施設としてカジノ施設を明記し、「世界中の人々を惹きつける新たな拠点」として形成し、2050年の都心臨海部を「世界が注目し、横浜が目的地となる新しい都心」にすると書かれている。
その核心ともいうべきカジノ導入が市民によって拒否されたわけで、2050年の都心臨海部の都市づくり構想そのものの根本的な見直しが求められている事態なのだ。
市民に意見を聞きたいというのなら、そのような事態に至ったことを率直に認め真摯な態度で、あらためて2050年の都心臨海部をどうするかを議論し直したいと呼びかけるべきであった。「再生マスタープラン」の見直し議論抜きの「アイデア募集」はいかにも矮小で、事態の深刻さを理解していないか、市民の意見を聞いたというアリバイづくりとしか思えない。
3点目の感想は、われわれが学習会を通じて学び、検討した結果として以下に述べる意見は、「意見交換会」での議論に参加して、ますます大事になったと感じたということである。
最後に、港湾局が「意見交換会」の結果をどのように市民に公表するか、大いに関心があることをつけ加えておきたい。
2、意見その1─募集の仕方の問題
市民の意見募集と事業者提案の両方を同時にやるという問題。事業者には純資産10億円以上と限定している点。その後の集約の仕方等々。こういう募集の仕方では、カジノ誘致に反対して山中市長を誕生させた(あるいはカジノ反対派に投票した)民意、市民の思いは反映されようがない。
第1に、そもそもなぜ、意見募集に至ったか、事態の深刻さを認識した上で、募集の仕方を大きく改めるべきであった。
市民によってカジノ誘致が撤回されたことによって、前林市政下でつくった2050年の都心臨海部の将来像の見直しが迫られていることについては、すでにふれた。そのように事態を認識しているなら、こうした安直な意見募集の仕方はしなかったはずである。
もうひとつ別の角度から、意見募集の仕方について問題点を指摘しておきたい。市民に対する行政の態度が変わっていない。前林市政下で横浜市は自公与党と一体となり、「二元代表制」の名の下に市民の直接請求を退け、カジノ誘致を強引に進めた。それが、市長選挙によって覆された。ここから、行政は教訓を引き出し、市民への向き合い方を変えるべきである。
しかし、今回の市民意見の募集の仕方、とりわけ事業者提案と同時並行的に進めるやり方を見る限り、態度は改まっていない。このやり方では、事業者提案だけが取り上げられ、市民意見は「聞き置く」にとどめられかねないからである。またしても市民の声は無視されることになる。
第2に、事業者提案の資格として「総資産10億円以上」という条件が付けられているのも問題である。
これでは、「総資産10億円以上」の大企業だけに山下ふ頭再開発の特権が与えられることになる。港湾局は、ゼネコンに横浜の一等地を売り渡す気かと疑いたくなる。地元の港運業者からなる「ハーバーリゾート協会」が直ちに、募集そのものに「白紙撤回」を要請したのは、当然である。
3、意見その2─港湾局だけで募集をしている問題
「意見その1」と表裏の関係だが、2050年の都心臨海部の構想、その一環としての山下ふ頭のあり方について、本当に市民の意見を聞こうとするなら港湾局だけでは到底無理というものである。
いま求められているのは、「都心臨海部再生マスタープラン」の構想を見直し、新たな2050年の都心臨海部の都市づくり構想をつくることである。それには、市民各界から知恵を集め、広い市民の参画が欠かせない。そうした市民の知恵と力を集めるためにも、また全庁の職員の力を集めるためにも、全庁横断的な体制をとる必要がある。飛鳥田市政時には、縦割りを止め「企画調整室」を新設し、その下で力を結集し都市づくりを進めた経験がある。山中市政でも市政の重要課題については、全庁的な体制が採られるようになっている。
都市づくりで先進的な役割を果たしてきた横浜市には、それを担ってきた人材が都市デザイン室、文化観光局をはじめ広く各部局にいる。こうした人材を適宜全庁的に結集し、市民と意見交換できる「回路」をつくることができれば、これまで以上の大きな役割を果たすことができよう。
4、意見その3─内港地区、山下ふ頭の再開発の計画策定をどのように進めるか
われわれは決して「反対のための反対」を主張しようとしているのではない。カジノ誘致を撤回させた市民が、その後どのような都市づくりを進めたか、次の世代から、国の内外から審判をうけることになると思いながら、臨んでいる。
繰り返し指摘したように、いま求められているのは、カジノ導入を目玉にした「都心臨海部再生マスタープラン」の構想そのものを見直し、新しい2050年の都心臨海部の都市づくりの構想をつくることである。
そのためには第1に、これまでの横浜の都市づくりの歴史に学ぶことが重要だと考える。
とりわけ飛鳥田市政以来の横浜の都市づくりは、日本だけでなく世界でも高く評価されている。われわれは、3~4月に開催された「都市デザイン50周年横浜展」に何度も足を運び、都市デザイン室のスタッフから説明を聞き、横浜市民として大いに誇りを感じた。
学習会では、高度成長期の飛鳥田市政下でつくられた「6大事業」を軸とする田村明氏らによる長期構想と実践、それを継承して「縮減」、人口減少期を展望して中田市政下で提起された北沢猛氏らによる創造都市構想などを学び、指針にすべきと思った。が、ここで説明するのはひかえたい。ただ、これから50年後の横浜の都市づくりの構想を立てようとする時、幸いにして横浜市民はゼロから出発する必要はなく、世界に誇れる先人たちが築いた経験と資産があり、それに学ぶことができるという利点があることを指摘しておきたい。
第2に、そういう観点から、50年後の横浜の都市づくり、都心臨海部の将来像の構想を立てようしている今、直接、参考にできる提言がある。
それは中田市政下、北沢猛参与を中心につくられた「次なる50年 横浜は海都(うみのみやこ)へ 都心臨海部・インナーハーバー整備構想」提言書である(正式発表は林市政下の2010年3月)。
これは、高度成長から非成長、「縮減」社会へ、人口減、超高齢化社会へ向かう時代認識を明確にして、50年後のあるべき社会の理念から、今日なすべきことを描き出す「未来設計」という方法で描き出した都心臨海部の壮大な構想である。
次の世代の都市像をできるだけ具体的に描き出さねばならないが、明確な理念、目標と戦略を整理することから始めている。
5つの「基本理念」(人間中心の都市、持続可能な環境、人材・知財を活かす社会、文化芸術創造都市のさらなる展開、市民社会の実現)が掲げられ、内水面を囲む豊かさを最大限活かした構造として「リング状都市」が提案されている。
そして「インナーハーバー」は、都心部・郊外部の区別なく、すべての横浜市民の「共有財産」であって、都市としての自立性を高める。そこだけで完結するものではなく、「横浜の泉」と捉え、湧き上がる清水のように「横浜の魅力」を我が国全体と世界に波及していくとしている。
だが遺憾なことに、この壮大で志の高い都市構想が、林市政2期目のカジノ誘致によって棚上げにされた!
カジノ導入を明記した「都心臨海部再生マスタープラン」では、5つの理念が否定され、世界的な都市間競争に勝ち抜いて「人々に選ばれる都心」「世界が注目し、横浜が目的地となる新しい都心」の将来像に置き換えられている。
これはまさに、巨大資本による「短期利益の最大化」の都市像である。カジノは、まさに「短期利益の最大化」を象徴するビジネスモデルである。
われわれは、棚上げされた「インナーハーバー整備構想」を手元にもどし、これに立ちかえって、人間中心の生活都市横浜に向かう長期構想を描かなければならない。
横浜市民は起ち上ってカジノを止め、横浜市の暴走を阻止したが、100年に一度と言われるコロナパンデミック、グローバル資本主義の行き詰まり、第4次産業革命、異常な格差社会、迫りくる気候危機、アジアの台頭など、歴史的転換期ともいうべき時代背景があった。
50年後の横浜の都市づくりに当たっては、「インナーハーバー整備構想」で提起された5つの「基本理念」をたたき台に、その後のこうした歴史的変化を踏まえて練り上げなければならない。
いずれにしても、50年後の横浜の将来像、都心臨海部の都市像は、基本理念、目標の議論から始めるべきである。
第3に、どのように構想を練り、戦略を描いて実現していくか。
ここでは、先に述べたように、飛鳥田市政以来の先進的な都市づくりを構想し、実現してきた実績だけでなく、その貴重な担い手、人材が市民各層の中にいることを指摘したい。都市デザインを担った人々から、建築家グループ、大学関係者、それに創造都市構想を担ってきたBankART1929や関係するクリエイター、商店街関係者などなどいたるところにおり、活動している。
市民による都市づくりの条件は、すでに揃っていると言えよう。
これらの人々の知恵と力を相互に連携させ、結集する仕組みをつくれるかどうかがカギとなろう。
結論
- いま求められているのは、カジノ導入を明記した「都心臨海部再生マスタープラン」そのものを見直し、それに代わる50年後の横浜の都市づくり、都心臨海部の将来構想を策定することである。
その際、「次なる50年 横浜は海都へ─都心臨海部・インナーハーバー整備構想」提言書は、たたき台になる。
順序としては「基本理念」「目標」から始める。
- この構想の策定時から、これまでの横浜の都市づくりに関わってきた人々、人材の知恵と力を最大限生かす。その力を発揮してもらう仕組みづくりがカギとなろう。
- 地域の市民が積極的にまちづくりに参加できるような仕組みも考える。
- 港湾局単独による策定に向けた作業は中断し、適切な全庁的体制をつくって、②、③と連携しながら進める。
以上
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