「新たな中期計画の基本的方向」についての意見

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                          2022年7月15日

      ヨコハマ市民自治を考える会/新たな「中期4か年計画」検討部会

 はじめに

われわれは2019年8月22日、林前市長がカジノ誘致を正式表明して以降、それを撤回させるための市民運動に参加した。そうした中で市政には他にも問題ありと認識し、2020年11月、「ヨコハマ375万人市民自治をどうする!?」というシンポジウムを開催。その直後に「ヨコハマ市民自治を考える会」を立ち上げた。市長選挙では「カジノ反対と市民自治」の立場を明確にした山中市長実現のため運動に参加。山中市長誕生は、横浜市民の「民意の勝利」であり、市民自治の復権と評価している。

以降、「住み続けたいまち横浜」という新たな市政に大きな期待を持ち、その実現のため、市民自治を発展させるべく活動してきている。

われわれは当初、新たな市政の方向を示す基本構想、あるいは「中期計画」案が提起され、市民の間での議論が始まるものと思っていたが、違った。まず、昨年12月23日、港湾局から、カジノに替わる「内港地区の将来像の検討」と「山下ふ頭再開発の新たな事業計画策定」に向けた意見募集等が開始された。次いで1月28日、「財政ビジョン(素案)」が公表され、こちらはパブコメを経て原案が策定され、6月7日の市会本会議で可決された。

いずれについても、われわれは意見を提出したが、その際「中期計画」策定との順序は逆ではないかと指摘した。とりわけ「財政ビジョン」の先行策定は、「中期計画」で策定すべき新しい市政の方向にあらかじめ財政面からタガをはめるもので、「中期計画」の策定と具体化に制約を設けるものと批判した。

5月31日、ようやく政策局から「新たな中期計画の基本的方向」(以下、「基本的方向」と略)が提示された。

山中新市長に代わって初めての「基本的方向」の提示に、これまでの開発優先の市政を市民の命とくらし優先に転換する方向が示されているか、期待をもって臨んだ。3回の学習会を持って検討した。「市民のための横浜市政を進める会」が主催した政策局からの説明会にも参加し、質問もしてみた。

こうした経過を踏まえて、以下に意見を述べる。

 はじめに

 1、全体的感想と意見

 2、「横浜をとりまく環境」についての意見

 3、「共にめざす都市像」についての意見

 4、 「基本姿勢」についての意見

 5、 「戦略」についての意見

 6、 「政策」についての意見

 7、 策定の仕方についての意見

 1、全体的感想と意見

  ①市民は、これまでの開発優先市政を転換し、命とくらしを優先する市政の実現を切望している

全体を通しての感想は、「民意」を汲む市民運動によって誕生した山中市長下で提示された初めての「中期計画」にしては、期待外れと言わざるを得ない。随所に「子ども」重視、「誰もがWELL-BEING」などの文言は多用されているが、何よりもこれまで続いてきた市政、とりわけ開発優先の林市政を転換する点が明確になっておらず、「市民の命とくらし優先の市政」を実現する方策も見えない。

第一に、共にめざす「明日をひらく都市」は、誰も否定できない夢のような未来が総花的に描かれているが、横浜市民のくらしの現状とあまりにもギャップが大きすぎ、なぜそこまで熱を入れるのかと疑問が先に立つ。

2年前から始まったコロナパンデミックは、世界の矛盾と同時に日本の政治と横浜市政の歪みをもあぶり出した。保健所や医療体制が機能不全に陥り、市民の命とくらしは危機にさらされた。外食・宿泊、医療・福祉などの非正規労働者、とりわけ女性に犠牲と負担が集中し、自殺者が激増した。子供の貧困、生活保護を求める人々は急増し、格差拡大と貧困化がさらに進んだ。

こうした市民の命とくらしの危機をもたらしたのは、中央政府の新自由主義的政策に追随し、カジノ誘致に行き着いた都心臨海部開発優先の市政、とりわけ林市政である。この開発優先の市政を転換することこそが現在、市民が望んでいるものである。

それなのになぜ、20年後の目指すべき都市像として夢のような未来に市民の関心を向けさせようとするのか。それは、市民の命とくらしの危機的現状から目をそらさせ、これを打開するにはこれまでの開発優先の市政を転換することがカギであることをあいまいにするためだと言ったら、言いすぎであろうか。

「基本的方向」には、市民が切望している、開発優先の市政を「市民の命とくらし優先の市政に転換する方向」が明記され、全体に一貫されなければならない。

  ➁新たな市政への転換を実現するには、キャッチフレーズだけでなく、財政の裏付けの「方策」がなければならない

今一つは、20年後に「未来をひらく都市」をめざすと提起しているにもかかわらず、どのようにしたら実現できるのか、その方策が示されていない。当然書かれるべき「9つの戦略」にも、「38の政策」にも、見出すことができない。それでは無責任というもので、「絵に描いた餅」になりかねないではないか。

問題なのは、これまでの中期計画にはなかった「財政ビジョンを土台に」いう条件が付け加えられている点である。これは、「歳出改革」を大胆に進めるという意味である。

どんな市政であるかは、「戦略」や「政策」に付けたキャッチフレーズやお題目ではなく、「財政のつかいみち」で決まる。「市民のくらし優先の市政」というならば、財政が市民のくらしに重点的に配分されなければならない。そうなれば、開発に振り向けられる投資的経費は従来よりも削られることになる。市民の命とくらしか、開発か、どちらに財政配分を優先するのか、したがってどちらを削るか、ありていに言えば、「歳出改革」とはそういうものである。

「戦略」や「政策」で「すべての子どもたちの未来を創るまちづくり」とか、「すべての子育て家庭及び妊産婦への総合的な支援」とかを第一番目に挙げていても、財政が保証されなければ「絵に描いた餅」に終わる。

したがって今回の「戦略」「政策」には、財政配分の優先順位を含めて明記されなければならない。毎年の予算編成に委ねるだけでは、中長期の期間を要する「市民の命とくらしを優先する市政」の実現はおぼつかない。

以上、要するにこれからの市政のあり方を、これまでの開発優先から「市民の命とくらしを優先する市政」に転換させるためには、「基本的方向」の内容を「横浜をとりまく環境」から「戦略」「戦術」に至るまで、それにふさわしく首尾一貫させるべきである。とりわけ、「素案作成に向けた検討案」として示されている「戦略」「政策」の部分では、財政配分まで一貫させることが決定的だと申し上げておきたい。

 2、「横浜をとりまく環境」についての意見

  ①歴史的転換期の現実とその影響とはかけ離れた根拠なき楽観論

この項目で書かれているのは、「人口減少と横浜への影響」として、社会では「コミュニティの維持が困難になる」「担い手不足が生ずる」、経済では「中長期的な経済成長を阻害する可能性がある」ということである。それらに対応して「将来にわたる安定した市政運営の土台」になるのが、財政ビジョンだと述べている。要するに、「横浜をとりまく環境」は、財政ビジョンで十分に対処できると言っているのだ。その「論拠」として、財政ビジョンで使われた2065年までの「長期人口推計」と「長期財政推計」が掲載されている。

率直に言って、余りにも安易かつ楽観的な「環境」見通しと言わねばならない。

われわれはこの2年あまり、コロナパンデミックがあぶり出した世界が、危機が深く、まさに歴史的転換期にあることを目の当たりにしてきている。それは新自由主義的グローバル資本主義が行き詰まり、先進国では社会分断が生じるほどの格差が拡大、国家の借金も史上最高となり、デジタル革命と言われる第4次産業革命が危機を速めている。世界経済では先進国と新興国の力関係に変化が起こり、国際関係にも変動が生じ、戦乱の危機も高まっている。それに気候危機が迫っている。

このような歴史的転換期にある世界の変動は、日本にかつて経験したことのない多大な影響を及ぼすことは明らかであろう。エネルギー、食糧を他国に頼らざるを得ない日本への影響は計り知れない。

こうした現実をありのままに認識するなら、「横浜をとりまく環境」に書かれている見通しが、どれほど一面的で固定的なものか、歴史的転換期の実際とかけ離れた観念論であるか、明らかであろう。

しかも、これからの20年間くらいが、もっとも変動激しい時代となることは必然である。「計画策定の考え方」のところでは、「社会の変化が激しい中では、先を見通したビジョンは困難」と認めているではないか。45年後の当てにならない「長期財政推計」にもとづく財政ビジョンで対応できるとする「横浜をとりまく環境」は、根拠のない楽観論である。歴史的転換期の大激動の影響を多方面にわたり受ける実際的な評価に修正し、それにふさわしい対応策を準備するようにしなければならない。

  ➁市民にとって、リスクもあるがチャンスもある時代

歴史的転換期にある世界の経済、政治の変動から、日本と横浜が多方面にわたる影響をストレートに、しかも速いテンポで受けるのは必至である。だが、国民の多数、市民の多数にとっては、リスクだけでなく、チャンスの機会ももたらされるということを認識しておく必要がある。

なぜなら、歴史的転換期には、これまでの社会制度、国際関係を律する制度、国の制度、国と地方の関係の制度が現状に合わなくなり、限界を迎えて新しい制度に変革される時代でもあるからである。例えば、横浜市の財政問題一つを考えてみても、これまでの税財政のあり方が45年も続くなどということはありえない。これまでも国の税財政のあり方も、国と地方の税財政配分のあり方も変化して現状となっている。国の借金である国債残高は1000兆円を超えており、もはや限界で変化は避けられない。

変革するのは結局のところ、国民、市民の意志と力である。そうした観点に立てば、市民にとってリスクが増大するだけでなく、変革のチャンスも広がる大いに可能性のある時代である。「横浜をとりまく環境」として、日本の新しい生き方とともに、横浜の未来を切り開くことができる時代であることを書きこみ、市民に広めるべきではないか。

こうした時代に横浜市民は、運動を通じて市長選挙に勝利した。ここを新たな第一歩に「市民の命とくらし優先の市政」に転換するために、次なる一歩を踏み出すところに来ている。新たな「中期計画」をどうつくれるかは、最初の試金石となる。

 3、「共にめざす都市像」についての意見

  ①夢のような「ありたい姿」ではなく、時代を見据えた横浜市の「基本理念」を打ち出すべき

 この項目は、「社会の変化が激しい中では、先を見通したビジョンを描くことは困難」だから、その代わりに2040年頃に「現在想定した課題が解決した姿(イメージ)」を示したという。「未来の横浜のありたい姿」を「市民生活の未来」「都市の未来」「都市基盤の未来」と3方面に分け、22の具体像が示されており、「基本的方向」全体の6割以上のページが割かれている。

 だがすでに述べたが、政策局が力を入れれば入れるだけ、横浜で現実に働き、暮らしている市民にとっては、ウソっぽい夢のような話にしか聞こえない。

 市民の多くは、意識しているかどうかは別にして歴史的転換期のなかで、命とくらしの厳しい状況におかれている。それはこれまでの市政がもたらしたものであるとの認識も広がっている。

 こうした市民が切実に望んでいるのは、20年後の夢物語ではない。これまでの開発優先の市政を「市民の命とくらしを優先する市政」に転換し、現状を一歩でも変えることである。この点をあいまいにし、煙にまくような「イメージ」は、有害である。これからの20年間は歴史的転換期の中でももっとも変動激しい時期であり、横浜への影響は激しく、「イメージ」さえ吹き飛ばされかねない。

 歴史的転換期だからこそどのような横浜市をめざすか明確な目標が必要である。そこで、横浜市の「基本理念」を打ち立てることを提案したい。高度成長期には飛鳥田市政下で理念が明確にあったが、「縮減」時代、人口減社会の横浜市の「基本理念」はいまだない。具体的な提案はおくとして、「市民の命とくらしを優先する市政」の方向を「基本理念」として打ち立てる、市民も参画して検討されるようにすべきと考える。

  ➁市民の命とくらしの厳しい現状を示すデータが取り上げられていない

 「共にめざす都市像」をイメージするのに、「現在までの経過や統計データ等の中で、今後さらに顕在化・深刻化しそうな課題を把握」して、それが解決された姿を描いたと言っている。

 だが、統計データをチェックしてみると、もっとも肝心な「市民の命とくらし」に関わるデータが取り上げられていない。使われているのは「未来へのヒントとなる現状や統計データ」であり、「ありたい姿」を描くのに都合のよいデータである。

だが、本来取り上げられねばならないデータは、それとは反対の「不都合な」データである。厳しい現実を示すデータをそろえ、分析して初めてとるべき政策の見当をつけることができる。そういうデータこそが「基本的方向」を策定するのに必要とされており、市民にも積極的に公開すべきものである。

具体的にいくつかのデータをあげて説明したい。「市民生活の未来」の具体的像として「誰もが健やかで安心して暮らせるまち」のイメージが描かれている。しかし、そこには、もっとも肝心な「所得格差の拡大」や、「生活困窮者」などの実態を示すデータが1つも取り上げられていない。

「所得格差」の実態を示す統計として「住宅・土地調査報告」があり、横浜市の「収入階級別世帯数」のデータも載っている。それによれば、1998年~2018年の20年間に、年収200万円未満世帯は全世帯の9%から12%に増加している。さらに年収500万円未満世帯を見てみると全世帯の40%から52%に12ポイントも増加している。低所得世帯が増加し、所得格差は明らかに拡大している。

また、現金給与総額の推移(1997~2021年)が分かる統計もある。こちらは横浜市のデータはないが、神奈川県がある。従業員5人以上、産業計の常用雇用者の現金給与総額(月額)の推移を見てみると、この24年間で77,379円、実に19・7ポイントも減っていることが分かる。主たる要因は非正規労働者が全労働者の約4割にまで拡大したことであろう。

さらに「子供の貧困」を示す調査もある。2020年のデータだが、国の貧困線を下回る水準で生活する子供の割合は、5歳児が6・1%、小学5年生が7・8%、中学2年生が6・9%にのぼっている。

そのほか、生活保護世帯の激増を示すデータもあり、リーマンショック後に大きく増えている。

 市民のくらしをよくする政策をつくろうとするなら、まずはその実態を示す統計データをきちんとそろえ、分析しなければならない。

 4、「基本姿勢」についての意見

 ここでは、「共にめざす都市像」の実現に向け、重視する視点が5点あげられているが、「市民の命とくらしを優先する視点」を入れるべきである。これがなければ、「地域コミュニティ強化の視点」といっても、地域コミュニティそのものが成り立たないからである。

 5、「戦略」についての意見

  ①戦略①「すべての子どもたちの未来を創るまちづくり」、戦略②「誰もが生き生きと生涯活躍できる街づくり」、戦略⑧「災害に強い安全安心な都市づくり」については、財政の重点配分をする主旨を加える。

なぜそうするかについては、1の②のところで大方説明した。若干補足すると、そうした考え方を持つに至ったのは、林市政の3期12年間の検証を財政分析を通じて行い、さらに政令6市と比較したからである。

分析の結果、横浜市民は政令市の中でも1、2位を争う高い税金を払っているが、それに見合った市民サービスは受け取っていない、開発に優先的に使われているからである。林市政は「共感と信頼の行政を目ざして」「市民のくらしの充実」などとのキャッチフレーズを使っていたが、その実オリンピックに向けてと新市庁舎、都心臨海部などの開発に優先して財政を投入、挙句の果てにカジノ誘致に突き進んだ。

また、林市政は開発市政を「正当化」するのに、「経済のエンジンを回し」て福祉の財源を確保すると言っていたが、トリクルダウンは起こらなかった。

 こうした林市政の総括を通じて、開発優先市政から、「市民の命とくらし優先の市政」への転換を明確にすること、それを実現するには言葉だけでなく、財政を重点配分すべきとの結論を得たのである。

  ➁「戦略③Zero Carbon Yokohamaの実現」について、これまでの大企業主導では「2030年50%」の削減目標すら達成できない。原発や火力発電の大規模集中型システムによらず、横浜版シュタットベルケ=自然エネルギー公社創設構想による地元中小企業、協同組合、市民の連携した地域分散型ネットワークシステムに切り替えることを提案する。

  ③「戦略➄新たな価値を創造し続ける郊外部のまちづくり」について、上瀬谷を「新たな活性化拠点として形成する」としているが、「短期利益の最大化」を図るテーマパークやタワーマンション建設には反対する。地権者とともに市民の意見を聞いて進める。

  ④「戦略➅成長と活力を生み出す都心・臨海部のまちづくり」について、特に山下ふ頭についてはかつての「次なる50年 海都へ インナーハーバー整備構想」を参考に、インナーハーバーを「市民の共同財産」と位置づけて、その都市づくりの一環として形成する。

 

 6、「政策」についての意見

  ① 政策1に「子どもの出産費用、医療費をゼロにする」を明記する。

  ② 政策2に「待機児童をゼロにする」を明記する。「市立保育所の民営化を中止し、認可保育所を増やし、保育士の待遇を改善する」を加える。

  ③「政策5」に「中学校の完全給食を実施する」と明記する。

  ➃ 「政策17」に「全市1保健所をやめ、18区保健所体制にもどし、医療福祉職を拡充する」を加える。

  ➄「政策28」に「敬老パスを無料化する」と明記する。

  ➅適切なところに「高すぎる介護保険料・国民健康保険料を引き下げる」を加える。

 7、策定の仕方についての意見

 カジノをめぐる市政のあり方の教訓は、行政と議会の「二元代表制」だけで完結しない、市民による直接民主主義が不可欠ということであった。

そうした教訓を活かして市民の声が反映する市政を実現するために、山中市長の新たな市政のあり方を決める「中期計画」の策定過程に、これまでと違って市民が積極的に参画できるようにすべきではないか。

例えば、18区で素案の説明会を開き、質疑応答、意見交換を行う場をつくるなど工夫すべきであろう。

                          以上


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