財政ビジョン素案に対する意見

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    2022年4月5日

   ヨコハマ市民自治を考える会/新たな「中期4か年計画」検討部会

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はじめに 今なぜ、財政ビジョン策定か、大いなる疑念。

1、当てにならない超長期推計値に基づく、「歳出改革」「公共サービスの削減」という処方箋は暴論、市民の願いに逆行するもの。

2、「これまでの財政運営」の検証と総括をしなければ、「これからの財政運営」の確かな道標を示すことはできない。

3、結論。

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はじめに 今なぜ、財政ビジョン策定か、大いなる疑念。

財政ビジョン素案(以下素案と略する)では、策定の狙いを以下のように述べている。

「横浜市が提供しているサービスは、現役世代の皆様からのご負担だけでは足りず、将来世代から前借りする形でまかなっており、世代間での『助け合い』にはゆがみが生じています。また、今後は、高齢化や公共施設の老朽化への対応など、公共サービスの需要はますます増える一方、市税等の担い手である市民人口は減少が予想されており、こうした厳しい財政状況により、将来、必要最低限の公共サービスすら提供できないような事態となる恐れがあります」。

 そして「いま、行動を始めることが必要」として、「道標として、中長期の財政方針とするべく策定する」と。

 率直に言って、いまなぜ、唐突に素案の策定か、はなはだ疑問である。これは昨年8月、「カジノ反対、市民自治」を掲げて市長に選任された山中市政のあり方に「財政」面からタガをはめようとするものではあるまいか。

本来なら、山中新市長の下でどのような横浜市をめざすのか、新しい市政のあり方を示す「中期4か年計画」、あるいは基本的構想を策定するのが当然であろう。財政方針は、その計画を執行するためのものであり、それに準じて策定されるべきで、これまでも市長交代時にはそのようにしてきた。

そうしたやり方を敢えて覆し、「財政ビジョン」の策定を先行させるとは、どうしたことか?! まるで「靴に合わせて足を削る」ような、無理筋のやり方に疑問が湧く。2022年度予算案では、山中新市長の選挙公約─3つのゼロ(敬老パス自己負担ゼロ、子どもの医療費ゼロ、出産費用ゼロ)と「中学校給食の全員制実施」がどれ一つ予算化されず、「検討課題」として先送りされた。さらには自民党、公明党議員による財政ビジョン関連質疑を併せて考えてみると、素案は私たち市民が望む「市民の命とくらしを優先する市政」への転換を阻むための道具立て、「方便」づくりとしてしか受け取りようがない。

 とりわけ2065年度には「収支差」が、1752億円(今年度の約9倍)にも拡大するという衝撃的推計値を示して、15%もの歳出カットがなければ、「将来、必要最低限の公共サービスすら提供できないような事態となる恐れがあります」と述べている。こうした「脅し」まがいの言いぶりに象徴されるように、素案が提起している中長期の財政方針は、市民の願いに逆行するものである。納税者である市民に対して負うべき行政の責任はどこに行ったのか。

 私たちは、そうした疑念を抱きながら、素案を検討した。

 「市民の命とくらしを優先する市政」への転換を実現しようとする立場から見て、重大な問題点があり、「根本的な見直しを求める」との結論に達した。

 第一に、「これからの財政運営」の「道標」として提案されている「財政運営の基本方針」「将来に向けて、今から取り組むべきアクション」は、45年後の超長期間の人口推計値のみを「根拠」に、長期財政推計を試算している。しかし、前提条件にしている超長期推計データは、まったく当てにできない。そこから導き出している処方箋の柱である「収支差解消アクション」は、「公共サービスの削減」を意味する「歳出改革」を推し進めるものとなっている。

 第二は、素案は今日の財政状況について、「収支差が拡大」した結果、「予算編成が臨時的な財源に頼らざるを得ない状況になっている」として素案策定の背景を説明している。しかし、そのような財政状況は、決して自然現象のように生じたものではない。「これまでの財政運営」の結果としてつくられたものである。

したがって、「これまでの財政運営」を徹底検証し、問題点を解明、総括してこそ、「これからの財政運営」の確かな「道標」を見出すことができる。しかし、素案は歴代市長の財政運営、とりわけ細郷市長、高秀市長による大規模開発優先市政、直近では林市政の開発優先市政、裏返せば市民の命とくらしをないがしろにして来た市政の総括に踏み込んでいない。「収支差拡大」の累積である借金が3兆1504億円にまで積み上がった主たる原因が、歴代市政の大規模開発優先の市政にあることを明確にしないまま、借金のツケを現世代とこれからの世代に付け回ししようとしているのが素案の根本的問題点である。

1、当てにならない超長期推計値に基づく、「歳出改革」「公共サービスの削減」という処方箋は暴論、市民の願いに逆行するもの。

(1)45年後の2065年の超長期推計・データはまったく当てにならない。

素案は、「これからの財政運営」の唯一の「根拠」として、「横浜市将来人口推計」(平成29年12月公表)による2065年の推計結果をあげている。

「総人口は302万人に大きく減少、生産年齢人口(15歳~64歳)は約3割減少し、高齢者人口が108万人になり、総人口の3割を超える」。そして、それを基に「横浜市の長期財政推計」(令和4年1月更新版)を試算している。

 それによれば、2065年度の収支差は「1752億円」(「中位」推計)にも上ると衝撃的な数字を明示し、何もしなければ財政が「持続不可能な危機的状況」に直面すると指摘している。

 だが、その超長期推計・データは、およそ不確かで、財政収支の見通しを立てるうえで当てにならないものである。

 第一に、推計期間が45年間という超長期間の推計値という点に問題がある。都道府県を含む他の自治体財政の推計期間は、長くて10年、5年が一般的である。例えば、大阪府は15年、広島県10年など10年以上は限られており、埼玉県や大分県も5年となっている。わが神奈川県も5年、川崎市は10年、相模原市が7年。指定都市の大阪市や札幌市は5年である。

 「中長期の視点に立った財政運営」を奨励している「地方公共団体金融機構」が、「地方公共団体における財政収支見通しに関する調査研究報告書」(2018年6月)を公表している。それによれば、推計期間について、「10年とした場合には後半の推計値の精度が低下することが懸念されるため、5年が一般的である。他方、5年でも現時点で予定されていない制度改正が追加される可能性が大きくなるため3年に限定している事例」もあると指摘している。

 以上から、素案の推定期間45年間というのは、きわめて異常な長さであることことは明白である。だから素案でも「本推計は、将来の状況を正確に見通す予測というよりも、現時点で得られるデータをもとに、統計的な手法等を採り入れながら、将来の財政を機械的に推計するものであり、その推計結果については、幅をもって解釈する必要がある」と言い訳せざるを得ない。

であればなおさら、なぜ、敢えてこのような超長期間の推定期間を設定したのか、素案作成をした財政局に明確な回答を求めたい。

 第二の問題は、その上に、もっぱら「人口推計」のみのデータを根拠に「収支差」を試算するという、驚くべき粗暴な手法をとっていることである。

東京都の長期財政推計は、横浜市よりも25年も短い20年の推計期間(横浜を除けば一番長い!)で試算している。が、東京都は人口動態だけでなく、就業者数や経済成長率を指標として加え、3ケースを設定して収支差の推計を試算している。

問題は、10年先の長期経済予測さえ不確実性が高いとして警告する中央官庁関係者がいて、その世界では常識になっている。経済産業研究所所長を務める森川正之氏は、「10年先までの基礎的財政収支を試算している『中長期の経済財政に関する試算』(内閣府)は、複数の仮定を置いている」が、「金融危機などの経済的ショック、新たなイノベーションとその普及、地政学的リスクの顕在化、大規模自然災害など予測困難な要素は数多く、長期経済予測には大きな不確実性がある」と、歴史的転換期における長期予測の難しさを率直に吐露し、戒めている。コロナ禍を経験した今日では、感染症のパンデミックも新たに付け加えなければならない。

こうした激変期特有の様々な変動要因に翻弄されて、国家、中央政府予算のプライマリーバランスの試算そのものが絶えず見直しを迫られているのは、衆知の通りである。

このような10年先さえ予測困難な歴史的転換期に、45年後の「横浜市の長期人口推計」を唯一の根拠データとして「長期財政推計」(収支差「1752億円」)を「われわれはデータに基づいているぞ」とばかりに市民に公表する態度は、いかがなものか。

(2)より重大なのは、当てにできない「机上の」推計値を基にして、「将来、必要最低限の公共サービスすら提供できないような事態となる恐れがある」と強調して、「公共サービスの削減」「歳出改革」に世論誘導していることである。

 これは、「収支差」拡大の責任を一方的に市民に負わせ、市民の犠牲で「解消」しようとする暴論である。市政運営の公平性のかけらも見えない。

 素案では、「財政の基本方針」を具体化する「4つの将来アクション」の最重要な柱・「収支差解消アクション」では、もっぱら「歳出改革」だけが取り上げられている。

 「2030年度までに減債基金の取崩による財源対策から脱却したうえで予算編成における収支差を解消」という「目標」を掲げ、「2022年度から歳出改革を意識した取り組みに着手、2024年度から本格化させ、毎年度60~70億円を歳出削減、2030年度までに500億円程度削減する」としている。

 「歳出改革」のやり方については、「施策・事務事業評価制度を再構築」し、「一般財源額の充当額が多い上位100大事業について、現状や課題等の分析を行いながら、全事業を対象に実施します」という。「具体的内容は、今後策定する『行政運営の基本方針』で検討する」としているが、「市民利用施設や外郭団体等、市が関与している施設・団体のあり方」についても「検証・見直す」としている。さらに「受益と負担の適正化を図る」として、「使用料や手数料」についても「適正化の実践を図る」と述べている。

 高齢化が進む中で、拡大する「社会保障経費」、「公共施設の保全更新のあり方」という、市民生活に直結する事業が「歳出改革」の最大のターゲットになることは、明らかであろう。

 私たち市民だけでなく市職員にも、2002年からの中田市政の「横浜リバイバルプラン」(官から民へ)に基づく「歳出改革」の悪夢を想起する人は少なくないはずである。

 中田市政下では、5兆円超の市債残高を減らすため、「事務・経費の見直し」として職員のリストラ、非正規化、諸手当削減、民営化・民託化、指定管理者制度の導入などの嵐が吹き荒れた。結果、横浜市の市民一人当たりの職員数は指定都市の中で一番少なくなり、人件費は一番低くなった。その影響は、さまざまに市民サービスの低下となって現れてきている。

「受益者負担の適正化」として、敬老乗車証の負担導入と額の引き上げ、市民利用施設利用料の見直し、斎場利用料の引き上げ、保育所運営費負担金の見直しなども実施された。

素案の「収支差解消アクション」を具体化すれば、さらに「公共サービスを縮減」する重石が重ねられることになる。

そうした流れの中で、先送りされた市長公約─「3つのゼロと中学校給食全員制」─を実現しようとしているのかという疑問がもたげる。この点について、逃げないで回答されたい。

2、「これまでの財政運営」の検証と総括をしなければ、「これからの財政運営」の確かな道標を示すことはできない。

(1)素案は、「策定と背景・ねらい」について、「4つの観点」を述べているが、いずれも「これから」の見通しに関わる観点であって、「これまでの財政運営」についての検証と総括の観点がない。この点こそが素案全体を通しての根本的な問題点だと考える。

 素案があげている「4つの観点」とは、「①現在及び将来の横浜市民への責任、②市政運営の前提条件の転換、③3つのリスクへの中長期的な対応、④特別自治市を見据えたより高度な自立性・自律性の確保」である。

 「これから」を見通すうえで、これらの観点は押さえておくべき点ではあろう。しかし、今日の財政状況、「収支差が拡大」して「予算編成が臨時的な財源に頼らざるを得ない状況」になっているのは、他でもなく「これまでの財政運営」の結果である。したがって、「これまでの財政運営」を検証し、総括することが、第一義的になすべき作業でなければならない。

 それに関しては、素案でも何点か指摘している。しかし、なぜそうなったか原因を解明するほどに検証が徹底しておらず、必要な教訓が導き出されていない。

「高齢化の進展等による社会保障経費の増加が続いており、本市の予算規模が拡大する要因になっている」。

②「公共投資の経費(施設等整備費)については、公共施設の保全更新需要に対応する一方で、新規の大規模事業等も推進してきたことから、近年、高い水準で推移」している。

③一方、歳入については「市税収入が、人口増加ペースの鈍化と国の税制改正等により、歳出の伸びを補うほどには増加しておらず、各年度の予算編成には臨時的な財源に頼らざるを得ない状況」となっている。

その収支差を埋め合わせるために、「臨時財政対策債」に頼ることになり、財政目標を変更せざるを得なくなったと指摘している。

④結果、地方自治体財政の健全性を判断する指標である「実質公債費比率」と「将来負担比率」は、これまで改善傾向にあるが、「他の指定都市と比較するとまだ相対的に高い水準」にあり、「今後も適切な債務管理を行っていく必要」がある。

しかし、「これまでの財政運営」についての、このような素案の指摘だけでは、何が原因だったか明らかにされておらず、アイマイになっている。

真の原因を明らかにするには、歴代市長の財政運営をまな板に載せ、徹底して検証する勇気と真摯な態度が求められる。一握りのグローバル企業、ゼネコンの大規模開発を優先した歴代市長の財政運営にもメスを入れ、市民大多数の立場から「これまでの財政運営」を全面的に総括しなければならない。

結論を先に言えば、歴代市長の財政運営、とりわけ細郷市長、高秀市長による大規模開発優先市政、直近では林市政の開発優先市政こそが「収支差」を拡大し、膨大な借金を積み上げ、「予算編成が臨時的な財源に頼らざるを得ない」今日の財政状況をつくりだした真の原因である。裏返せば、この期間、いまだに中学校給食がないことに集中的に表れているように、市民の命とくらしがないがしろにされて来た。

ザックリした言い方をすれば、歴代市政を総括するとは、主として誰を基軸にした市政運営、財政運営がやられたか、一握りの大企業のための開発優先か、あるいは市民大多数の命やくらし、公共サービス優先か、検証を通じて明らかにすることである。

そうしてこそ「これからの財政運営」の確かな「道標」を見出すことができる。しかし、「これまでの財政運営」の総括に踏み込まず、歴代市政の問題点を不問に付す素案の態度では、「これからの財政運営」の確かな「道標」を示すことができない。

素案には、「今後の大規模公共事業の状況」として、「旧上瀬谷通信施設跡地関係」「旧深谷通信所跡地関係」「横浜環状南線・横浜湘南道路」をはじめ11の大規模開発事業」が目白押しに控えている。

「これまでの財政運営」に対する総括なしの素案の姿勢では、「収支差解消アクション」を唱えながら、これらの「大規模開発」が継続される一方、「歳出改革」と称して市民には「公共サービスの削減」「負担増」が押し付けられることになりかねない。

素案には、歴代市政の財政運営にも真剣に向き合い、今日の厳しい財政状況をもたらした真の原因を解明できるような姿勢こそが求められている。

(2)われわれの「これまでの財政運営」の具体的検証と総括。

 歴代市長の財政運営のすべてを検証、総括するのは簡単ではない。素案の指摘に沿いながら「類似団体」と比較して、林市政を中心に総括する。

①素案では「高齢化の進展等による社会保障経費の増加が続いており、本市の予算規模が拡大する要因になっている」と、あたかも「社会保障経費の増大」が財政悪化の第一の原因のように指摘されている。(社会保障経費=扶助費+医療・介護の保険運営等に係る負担金)

 しかし、データ集P.49の「類似団体比較」(指定都市の中の横浜市、川崎市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市の6市)市民一人当たり社会保障経費推移グラフに示されているように、社会保障経費の増加傾向は6市共通の傾向である。

素案では、平成元年度からの増加幅は他団体より大きくなっていると言っているが、絶対額は川崎市に次いで少ない。15.7万円。

 うち一人当たり扶助費の単独事業費の推移を示し、類似団体の中でもっとも高くなっていると「宣伝」しているが、補助事業費を含む扶助費トータルでは、最も低い。横浜市の児童、高齢者、障碍者、生活困窮者は、類似団体の中でもっとも少ない支援しか受けていないということである。12.7万円。

 人件費は、社会保障経費に次ぎ歳出に占める割合が多い費目である。これは「公共サービス」を保障するうえで不可欠な費用だが、この低さには何の言及もない。

 中田市政の非正規化、民営化、民託化、指定管理者導入など人件費削減策で大きく減らされてきたが、林市政下においても総額でも、市民一人当たりでも類似団体内でもっとも少なくなっている。9.4万円。これでは、公共サービスは劣化せざるを得ない。

②「公共投資の経費(施設等整備費)」については、「公共施設の保全更新需要に対応する一方で、新規の大規模事業等も推進してきたことから、近年、高い水準で推移」している。

 さすがにこれまでの財政運営の中に、「新規の大規模事業開発事業等」を推進していた事実があったことを否定してはいない。また、類似団体の中で、林市政になってから唯一増加しており、総額でも一番多い。

 問題は、一人当たり投資的経費でも林市政になってから増加傾向に転じ、横浜市民が1、2位の負担を負わされていることである。6.3万円。

 もう少し立ち入ってみると、横浜市の投資的経費の特徴は、「更新整備」が類似団体のなかで最も少なく、それと対照的に「新規整備」は一番多いことである。3.1万円。この期間、「更新整備」は後回しにして、新規開発事業を推進してきたことが分かる。

 データ集P.76からは、「これまでの大規模計画事業の実績」が記載されている。みなとみらい地区、市街地開発事業、横浜北西線、横浜北線、南本牧ふ頭建設事業。問題は、これらの大企業のための大規模開発事業が経済のエンジンを回し、それによってもたらされた膨大な収益が、トリクルダウンして市税収入の増加となっているかどうかである。

市民の税金を使った大規模開発の「費用対効果」が検証されるべきだが、素案にはこの検証がまるでない。改めて財政局に、この検証を求める。次に見るが、「法人市民税」の増加としてしたたり落ちるどころか、停滞、縮減している!

③一方、歳入については「市税収入が、人口増加ペースの鈍化と国の税制改正等により、歳出の伸びを補うほどには増加しておらず、各年度の予算編成には臨時的な財源に頼らざるを得ない状況」となっている。

 ここにもごまかしが見られる。言われている通り「ふるさと納税」などの税制改正により減収があり、伸びは鈍化しているが、林市政下において個人市民税は増加傾向にあり、総額でも一人当たりでも類似団体の中で1位、2位を占めている。10.4万円。

 他方、法人市民税は、類似団体の中でも企業本社が少ないので市税に占める割合は少ないが、それにしてもこの停滞は不思議である。一部国税化の影響もあろうが、それだけではあるまい。切開すべきは企業誘致、大規模開発の推進にもかかわらず、停滞しているということである。トリクルダウンが幻想であったことが分かる。

④以上、ここまでの林市政の財政分析を総合してみると、投資的経費が増加傾向に転じていること、総額でも1人当たりでも類似団体で1、2を争う多額が投入されている。中身を見ると、横浜環状道路、南本牧ふ頭建設事業に加え、新庁舎建設事業、みなとみらい、関内関外、横浜駅など都心臨海部など新規開発事業を押し進めたのである。

他方、扶助費、人件費の類似団体内での最低位置が示すように、高い市民税を納めているのに、それに見合った「公共サービス」は受け取っていない。新規の開発事業に優先に使われたのである。

要するに、林市政は開発優先の市政であったと総括できる。

⑤今日の財政状況に、細郷、高秀市長の中央直結の大規模開発市政が及ぼした影響についても触れておかねばならない。

 みなとみらい地区の開発事業は、細郷市政から始まるが、横浜市の予算が本格的に投入されるのは、1990年から始まる高秀市政からである。この年から普通建設事業費は急激に上昇し、92年から96年までは毎年5000億円以上の多額の歳出が続いた。

そうしたことができた背景には、日米構造協議で米国から630兆円の公共事業を約束させられたこと、バブル崩壊後の不況対策として政府が積極的に公共事業を奨励したことがあった。そのために、政府は地方自治体に地方債を発行させ、単独事業として行わせた。

 横浜では、三菱資本と組んでみなとみらいの開発、東急電鉄と組んで地下鉄建設、駅前の開発など大規模な事業が展開された。そのために、年3000億円近くの市債が発行された。高秀時代の大半に、公債費(元金+利子)以上に市債を発行した結果、2003年度末には市債残高が5兆282億円まで膨らんだ。これこそが今日の財政の硬直性の要因となっている。

 膨大な借金を押さえるために、国には「聖域なき改革」を掲げて小泉首相が登場し、横浜には中田市政が実現した。「横浜リバイバルプラン」を掲げ、積み上がった借金を減らすために、先に述べたリストラ、民営化など一気に進めた。公債費以上に市債を発行しない「横浜方式のプライマリーバランス」を打ち出し、市債残高の上昇を抑え、減らすことに腐心した。その結果、中田時代には市債残高は若干減ったものの、高止まりしたままである。

⑥林市政は、こうした市債残高高止まりの中で財政運営をしなければならなかった。新規事業を進めるために、財政調整基金や減債基金、それに保有土地の売却益など多額の臨時財源を積極的に活用して、歳出を賄ってきた。

 その結果、財政調整基金の残高は、過去最低に近い水準になっている。減債基金も積極的に活用した結果、積立不足額は類似団体中最大となっている。

他方、投資的経費をまかなうために、市債を発行し続け、臨時財政対策債を含む市債発行額は、類似団体中でもっとも多くなった。また、市債残高は2013年度から増え続け、2019年には2兆3926億円と類似団体の中で最も多くなっている。

 今日の厳しい財政状況は、歴代市長の開発優先の市政の結果である。

3、結論

  • 素案には、今日の財政状況をつくりだした「これまでの財政運営」についての検証も総括もない。しかも、当てにならない45年後の超長期の「人口推計値」を唯一の根拠に1752億円の「収支差」が生じると脅して、「公共サービス削減」「歳出改革」に世論誘導しようとするものである。

短期的には、山中新市長の選挙公約を阻む「方便」づくりにもなっている。

これは、新市長を実現して、市民の命とくらしを優先する市政への転換を望む市民の願いに逆行するものである。

根本的見直しを求める。

  • この時期に優先すべきは、新市長の下での市民の命とくらしを最優先する市政のあり方、中期計画あるいは基本的構想の策定である。
    • 「財政ビジョン」は、それに準じて策定されるべきで、その場合でも、推計期間は10年以内にすべきである。

                       (おわり)


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