2022年8月20日
ヨコハマ市民自治を考える会/新たな「4か年計画」検討部会
はじめに
われわれは2019年8月22日、林前市長がカジノ誘致を正式表明して以降、それを撤回させるための市民運動に参加した。そうした中で市政には他にも問題ありと認識し、2020年11月、「ヨコハマ375万人市民自治をどうする!?」というシンポジウムを開催。その直後に「ヨコハマ市民自治を考える会」を立ち上げた。市長選挙では「カジノ反対と市民自治」の立場を明確にした山中市長実現のため運動に参加。山中市長誕生は、横浜市民の「民意の勝利」であり、市民自治の復権と評価している。
以降、「住み続けたいまち横浜」という新たな市政に大きな期待を持ち、その実現のため、市民自治を発展させるべく活動してきている。
そういう立場から、山中市政になってから「財政ビジョン」(素案)、「新たな中期計画の基本的方向」、港湾局の「内港地区の将来像と山下ふ頭再開発」についての市民意見募集について積極的に意見を述べてきた。
今回、デジタル統括本部から「横浜DX戦略」素案(以下「DX戦略」と略)についてパブリックコメント募集がなされた。「DX戦略」は、「デジタルの恩恵をすべての市民と地域に行き渡らせ、魅力ある都市をつくることを基本目的」にかかげ、デジタル化の方針を策定しようとするものである。
世界的に見れば周回遅れだが、デジタル革命の波を避けて通ることはできない。どのようなDX戦略で立ち向かうかによって、これからの市政のあり方にも大きな影響を与える。
われわれは、市民自治を発展させる立場から、この課題には大きな関心を持ち、学習、検討してきた。
全面的な検討はできていないが、今回はDX戦略の基本的方向にかかわって2点だけ意見を述べる。
第1点は、アクション編「重点方針7」で「セキュアで活用・連携しやすいデータ基盤の整備」に関してである。どういうデータ基盤を整備するかは、まさにDX戦略のポイントである。これについて、「住民情報系システムの標準化対応では、国が掲げる4Q(25年度)までの移行期間を見据えて、・・・検討・開発を進め」る、とスケジュールが書かれているが、どのように「標準化対応」をするかは、各自治体でも大いに議論があるところであろう。国の要請に無批判的に応じるのか、それともデジタル化が進む中で地方自治の立場を貫くのか問われている。われわれは、後者の立場をとるべきだという意見を述べたい。
第2点目は、アクション編の最後には「データ活用分野における推進アクション」が4ページも使って掲載されている。だが、活用されればされるほど、個人情報保護が有効でなければ、どうなるか。昨年のデジタル改革関連六法の「整備法」でも、これまで自治体がそれぞれ独自の個人保護条例で行っていた個人保護に関する規制が個人情報保護法で共通化されるとともに、所管も個人情報保護委員会に「一元化」されることになった。それだけに、「DX戦略」のど真ん中に「個人情報保護」がますます重要になると書くべきである。
1、自治体情報システムの「標準化」は地方自治の立場を貫いて対応を
①国主導で進められている自治体DX戦略
「DX戦略」のフレーム編P.7には「戦略策定の背景」として、社会経済的にはふれているが、政治的背景にはふれていない。にわかに動き出した自治体「DX戦略」には、国の動きがあったことを押さえておく。
直接的な起点となったのは、2020年9月に菅政権が成立、10月の所信表明演説で最大の政策課題として「デジタル化社会の実現」を打ち出したことといえよう。菅首相は、「各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進める」「今後5年で自治体のシステムの統一化・標準化を進める」「司令塔としてデジタル庁を設置する」などを表明した。同年12月には、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」「デジタル・ガバメント実行計画」が閣議決定され、「自治体DX推進計画」を策定した。
そして翌2021年5月には、デジタル庁設置法、デジタル社会形成基本法、自治体情報システム標準化法、関係法整備法(個人情報保護法、番号法改正)などいわゆる「デジタル改革関連」6法が成立。9月には、デジタル庁が創設された。
こうして、各自治体は「自治体情報システム標準化法」によって、2025年度までに住民基本台帳など20業務の住民情報系のシステムを国が定める「標準仕様」に適合させると同時に、デジタル庁が整備するガバメントクラウドを利用するように義務付けられた。
要するに、25年度までの短期間に地方自治体の情報を標準化、国に集約し、国が集中管理するという菅政権以来の「行政のデジタル化」戦略の推進こそが、「DX戦略」策定を急がせているのである。
これまで自治体ごとに構築していた情報システムを標準化することで、統一的な基準に適合した情報システムに転換し、自治体はそれを利用する。地方自治の存立にかかわる重大な案件にもかかわらず、当事者である地方自治体や国民的議論を抜きに、国によって強引に推し進められている。コロナ禍におけるデジタル化の遅れの顕在化、国・地方間で連携、対応の混乱などに乗じて、一気にルール変更を導入する「ショック・ドクトリン」ともいうべきやり方である。
②自治体情報システムの標準化・共同化の問題点
では、菅政権以来、国によって推し進められている「自治体における情報システムの標準化・共同化」は、どこに問題があるのか。
これについては、日本弁護士連合会が当初から重大な関心を払い、会長声明を発表したり、シンポジウムを開くなど世論喚起の重要な役割を果たしてきた。いよいよデジタル改革関連法が施行、運用される局面に入った昨年11月16日、日本弁護士連合会として「意見書」をとりまとめ、公表している。
基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする日本の弁護士のすべてを網羅する自治組織である日本弁護士連合会の「意見書」は、しっかりとした法理論に立脚し説得力をもっている。われわれも、「意見書」を学習し、意見のよりどころとした。デジタル統括本部の皆さんも、ぜひ、学習されるよう希望する。
「意見書」は冒頭部分で、国による「標準化・共同化」が進めば、「特に地方公共団体の自由度を低下させ、地方自治を制約することになるのではないかという懸念」を表明、基本的な批判の論点を明確にしている。
1、標準化・共同化を進めるにあたっては、以下の措置をとることにより、地方公共団体の事務の執行における自由度を十分に確保し、地方自治の本旨、特に団体自治を侵害することにならない仕組みとすべきである、と述べている。
(1)地方公共団体情報システムの標準化基準の策定に当たっては、地方公共団体の業務実態を十分に踏まえたものとするとともに、独自施策が容易に実施できるような基準とすること。
(2) 地方公共団体情報システムは,地方公共団体が地域の実情に応じた施策を実施できるよう、カスタマイズを可能とする仕組みとすること。
(3) 地方公共団体のシステム標準化等に要する経費(移行に要する経費及びカスタマイズに要する経費を含む)については、全ての地方公共団体に対して等しく、これらの財政需要を合理的に算定した財政措置を講ずるものとし、地方公共団体の独自施策を事実上抑制したり特定の事業を優遇したりするような財政誘導を行わないこと。
(4) 情報システムの共同化については,ガバメントクラウドの利用が地方公共団体の努力義務とされているところ,地方公共団体の自主的な判断を尊重し、その利用を地方公共団体に対して義務付けることや財政誘導を行わないこと。また、複数の地方公共団体の連携による情報システムの共同化についても、地方公共団体に対して義務付けることや財政誘導を行わないこと。
(5) 地方公共団体の情報システムが円滑に運営されるためには、地域の情報産業の支えが不可欠であるので、国は地域の情報産業が地方公共団体の業務を適切に処理することができる環境を整えること。
2、国は、システム標準化等の実施に当たっては、個人情報の管理について、その安全性を確保し、情報セキュリティ対策に万全を期するため,次の措置をとるべきである。
(1) 国及び地方公共団体等の各行政機関等が保有する個人情報を特定の機関に集約する「一元管理」の方法をとるものとはせず、各行政機関等が個人情報を管理する「分散管理」の方法を採用すること。
(2) 不正アクセスに対する十分な技術的担保(情報セキュリティ対策)を講じるとともに、地方公共団体が保有する個人情報について地方公共団体がアクセス履歴をチェックできる仕組みを構築すること。また、外部からの不正アクセスのみならず、各行政機関等のアクセス権限のある者による不正アクセスを防止するため,専門家によって組織された第三者機関を設置し、情報セキュリティ体制を監視する制度を構築すること。
3、国は、システム標準化等の業務を所管することが予定されている地方公共団体情報システム機構について,代表者会議の構成を改めて見直すこと、個別の地方公共団体がガバナンスに参画する権利を法律上明記することなどにより、地方公共団体によるガバナンスを強化するとともに、同機構を情報公開法制の対象とするなど業務の透明性を確保するための措置を講じるべきである。
4、国は、システム標準化等の検討・実施については、地方公共団体の意見や要望を十分に反映し、業務の実態を踏まえたものとするとともに、国民の的確な理解と批判の下で公正かつ民主的に行われることを確保するため、次の措置を講じるべきである。
(1) システム標準化等に関する国と地方公共団体との公式の協議検討組織を設置すること。
(2) システム標準化等を検討するワーキンググループ等の運営については、資料等の公表、会議の公開等を含め、国民に対して透明性が確保された手続とすること。
5、地方公共団体は、システム標準化等を含む行政のデジタル化を進めるに当たって、特定の民間企業の利益を図ることとならないよう、地方行政の中立・公平性を確保するための体制を強化・拡充すべきである。また、そのために国においても,地方公共団体における職員への技術指導,専門性を有する職員の育成等を支援する制度を設けるべきである。
2、デジタル社会の公正、健全な形成を図るには、個人情報保護法・条例の強化が不可欠
「DX戦略」には、「データ活用を推進」とはあるが、それを公正、健全にすすめる個人情報保護の記載がない。問題意識さえなくなったのか、見識が問われるところ。
デジタル社会の形成を図るために、自治体の個人情報保護制度が大きく変えられようとしている問題である。「整備法」第51条によって個人情報保護法の一部改正が行われ、これまで自治体がそれぞれ独自の個人情報保護条例で行っていた個人情報保護に関する規制が個人情報保護法で共通化されるとともに、所管も個人情報保護委員会に「一元化」することとなった。
理由は、「デジタル社会」の形成のため、すべての国民が「高度情報通信ネットワーク」を「容易にかつ主体的に利用」できるようにするとともに、情報通信技術を利用した「情報の活用」を行うことで「情報通信技術の恩沢をあまねく享受できる社会」を実現するためだといわれている。
そのため、マイナンバー制度等の業務を強力に推進することが目指されている。「多様な主体による情報の円滑な流通の確保」が必要とされ、「情報」および「情報連携」はデジタル社会を形成するためのカギと強調されている。とりわけ社会福祉、医療、防災等デジタルデータの「活用」が指摘され、そのデータの流通にとって、個人情報の「過度な保護」「全国でバラバラな保護」は、支障になっているのである。
「意見書」では、「地方公共団体は住民の大量の個人情報を収集・管理していることから、その情報管理における安全性の確保とプライバシーの保護は、システム標準化等においても格別重要な問題である」として、「分散管理」の方法を採用すべきだとしている。
さらに、第204国会閣法第30号「付帯決議」として、デジタル社会形成基本法の運用にあたっては、「デジタル化の推進が国民を監視するための思想信条、表現、プライバシー等に係る情報収集の手段として用いられることのないようにすること」「個人の権利利益の保護を図るため、自己に関する情報の取り扱いについて自ら決定できること、本人の意思に基づいて自己の個人データの移動を円滑に行うこと、個人データが個人の意図しない目的で利用される場合等に当該個人データの削除を求めること、および本人の同意なしに個人データを自動的に分析または予測されないことの確保にあり方に検討を加え、必要な措置を講ずること」などの規制が明記されていることも指摘しておきたい。
3、結論
①「標準化・共同化」については、1の内容を横浜市デジタル統括本部という立場から、国に要請、渡り合うようにしていただきたい。
②個人情報保護法については、デジタル統括本部でも議論していただき、必要と認めるなら、「原案」にポイントを書き込んでいただきたい。
以上
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