2023年3月10日
ヨコハマ市民自治を考える会・2023年度予算案検討部会
はじめに 検討に当たっての立場と視点(問題意識)
①新年度予算案は、山中市長下で策定された「中期計画2022~2025」の実質的スタートを示す予算案である。
・予算案(財政)はどんな(誰のための)市政であるか、その性格を判断するうえで、もっとも基礎的な資料である。その見地から、われわれは林市政3期12年の財政分析を行い、カジノ誘致に至った林市政は都心臨海部一極集中型「大企業のための開発優先の市政」であることを明らかにし、2021年8月の市長選挙では「市民の命と暮らし優先の市政」への転換を求めて闘った。
・カジノ反対、「3つのゼロ」と中学校給食、市民自治を掲げて誕生した山中市政は、「財政ビジョン」「行政運営の基本方針」「中期計画」など新たな市政の基本的方向を策定したが、提案された素案に対してわれわれは上記の立場と視点をもって検討し、部会として「意見」を提出してきた。新たな市政の基本的方向を示す「中期計画」を策定する前に、「財政ビジョン」を策定するやり方に対しては率直に批判した。
しかし、「中期計画素案」では、林市政までの自民党主導の「大規模開発」「大企業誘致」を起点にする発展戦略を転換、将来像として「明日をひらく都市」を掲げ、「子育てしたいまち、次世代を共に育むまち ヨコハマ」を基本戦略に据え、「子育て世代への直接支援」を起点に好循環を実現するという新しい方向が提起された。それだけでなく、財政の使い方についても「『基本戦略』への貢献度が強い策を優先して実行していく」と明記された。
われわれは、その面を重視し、期待も込めて「市民の命と暮らし優先市政」への一歩前進と評価した。
同時に、大規模開発は旧上瀬谷通信基地跡地をはじめ継続するとされていることに懸念を表明し、規制すべきと提起した。さらに「財政ビジョン」をタテに、「歳出改革」という名目で市民サービスを削減・切り捨てに踏み込まないよう警告した。
加えて「中期計画」の最大の欠陥として、市民自治という考え方が極めて弱く、これを改めないかぎり、「市民の命と暮らし優先市政」への政策を一貫して推進し、転換を実現することは難しくなると率直に指摘しておいた。
②われわれは、以上のような「中期計画」に対する分析と評価の上に立って、2023年度予算案の具体的分析を行った。
われわれは、財政局による予算案説明会に参加して質疑を行ったり、市会の本会議、特別委員会での各会派(とりわけ自民党)の質疑を傍聴・視聴しながら、検討した。
予算案は、「中期計画」をどのように具体化しようとしているか、結局のところ「大企業のための開発優先」から「市民の命と暮らし優先」の市政への転換がはかられているか、いるとすればどの程度か、課題はなにかを明らかにしなければならない。
1、「基本戦略」への貢献度が強い策を優先して財政配分されているか?
①予算規模と概要
・予算規模は全会計総額3兆8,008億円(前年度比▲0.2%)。一般会計1兆9,022億円(同▲3.7%、実質的な伸び率同+1.0%)を計上、前年度をやや下回った。
・予算案の概要
歳出の特徴は「扶助費」をはじめとする義務的経費が伸び、「人件費」や「行政運営費」、「公債費」は減額、「施設等整備費」は前年並み、「繰出金」は増額となっている。
歳入のうち市税収入は、個人市民税は給与所得納税者数の増などにより4,172億円(前年度比+110億円)に増加する。固定資産税・都市計画税は土地の評価替えによる増や家屋の新増築の増などにより合わせて3,528億円(同+65億円)の増加。
市債は、中期計画における「4か年活用額:5,300億円」のもと1,148億円(前年比▲212億円)としている。
この結果、「一般会計が対応する借入金残高」は、▲741億円の3兆 569億円となり昨年度末残高(3兆1,309億円)より減少するとしている。しかし、一般会計の市債残高は減少しているとはいえ、大規模開発事業への巨額の市債発行は継続されている。
②「基本戦略に係る予算の約5割に当たる2900億円を子育て世代への直接支援に充てた」(市長記者会見)ことは一定評価できる。
・基本戦略に係る予算5485億円の内訳は、
「テーマ01子育て世代への直接支援」(小児医療費助成の拡充11.56億円、出産費用に対する調査0.15億円、保育・幼児教育の受け入れ枠の確保1,648.14億円、多様な保育・教育ニーズーの対応206.33億円、中学校給食の実現58.28億円、安心でよりよい教育環境の整備449.65億円等々)に2,903億円。
「テーマ02コミュニティ・生活環境づくり」(新たな図書館像の策定0.45億円、通学道路の交通安全対策12.65億円、地域療育センターの運営39.22億円等々)に767億円。
「テーマ03生産年齢人口流入による経済活性化」 (子育て住まいサポート1.86億円、「都市づくり戦略」の策定0.28億円、スポーツ・文化による賑わい創出7.11億円)に834億円。
「テーマ04まちの魅力・ブランド力向上」(国際園芸博覧会に向けた取り組み7.44億円、公園整備154.48億円、関内・関外地区の活性化推進30.09億円等々)に275億円。
「テーマ05都市の持続可能性」(脱炭素ライフスタイルの浸透0.83億円、カーボンニュートラルポートの形成促進2.1億円)に706億円。
・「子育て世代への直接支援」に約5割が充てられている。中学校給食でさくらプログラムの全校実施と全員給食に向けた配膳室の整備、中学3年までの所得制限などなしの小児医療費助成拡大、待機・保留児童ゼロを目指す受け入れ枠の拡大、特別養護老人ホームの整備などなど、山中市長が選挙公約として掲げた「3つのゼロ」と中学校給食の具体化に踏み出したものと言えよう。
公約目標から見ればまだ十分とは言えないが、市民の切実な要求を反映したもので、これまでの市政では実現しなかったものである。
③予算案には、市民意識調査にみる「市政への要望」が反映されているかどうかという角度からもみてみる必要がある。
「市政への要望」では、「地震などの災害対策」「高齢者福祉」「病院や救急医療など地域医療」「防犯対策」「通勤・通学・買い物道路や歩道の整備」が多く、「高齢者や障碍社が移動しやすい街づくり」「保育など子育て支援や保護を必要とする児童への支援」なども上位にある。
これらは、一定予算案に反映されているとみてよい。
④林市政までの自民主導の「開発優先市政」をどの程度転換したかについては緒に就いたばかりと評価すべき。
・過去40年の歴代市長下での性質別歳出を比較分析する必要があるが、比較可能な総務省の決算データは、本メモ作成時点で2020年度までしか公表されていない。したがって、山中市政になってどの程度転換したか示せない。
・代わりに予算案資料編(計数資料)P.34に掲載されている「一般会計歳出経費別構成比の推移」を使った。
これによれば、「扶助費」の林市政8年間平均は28.8%→新年度は30.2%に上昇。
「施設等整備費」(市単独)は、同8.8%→同7.1%に低下。
以上から、「市民の命と暮らし優先市政」への転換は緒に就いたばかりとの評価にとどめておきたい。
2でその理由を説明したい。
2、大規模開発事業の計画は目白押しで、規制されていない
①「財政ビジョン(素案)」P.80~86に「今後の大規模公共計画事業の状況」として明記されているだけでも11事業ある。
その主なものを挙げると
イ、旧上瀬谷通信施設跡地関係(土地区画整理事業想定事業費約590億円、新たな交通の導入320~340億円・周辺道路整備94億円、国際園芸博覧会の会場建設費320億円の3分の1、公園整備関係試算中)
ロ、旧深谷通信跡地関係(400億円)
ハ、横浜環状南線(4400億円)・横浜湘南道路(2500億円)
ニ、神奈川東部方面線整備事業(894億円)
②予算案には「設備等整備費」として以下を計上している。
・総額1,985億円(前年度比+6億円)と前年度並みの計上となっている。
イ、横浜環状高速道路に193億円(前年度比▲26億円)、埠頭機能の再編・強化に212億円(前年度比▲68億円)、山下ふ頭用地の再開発2億円(前年度比▲22億円)など、若干減額されているものの、大企業の基盤整備型公共事業や大規模開発事業に巨額の予算投入は継続している。
ロ、企業誘致促進43億円(前年度比+17億円)、観光・MICE推進44億円(前年同額)、客船の寄港促進11億円(前年同額)など引き続き「呼び込み型」施策に計上している。
③2023年度の「設備等整備費」の若干の減額は、林市政下で続けられてきた大型開発事業がひと段落した時期に当たるためであろう。2024年度以降、旧上瀬谷通信基地跡地の開発をはじめ、大規模開発事業の計画は目白押し、いわゆる普通建設事業費(施設等整備費)の増額は必至となる。そうなれば将来負担増、「扶助費」や市民サービスへのしわ寄せは避けられない。大胆な計画の見直しが必要である。
3、「歳出改革基本方針」はどのように具体化されたか?市民サービスは切り捨てられていないか?
①予算案には、どのように具体化されたか?
・予算案資料編(計数資料)P.18「行政サービスの最適化に向けた取り組み」で1,235件232億円の財源を創出との記載がある。
うち「歳出削減の取り組み」は、横浜芸術アクション事業2.18億円、市庁舎整備基金の廃止1.2億円、がん検診事業1.21億円など225件14億円。
・これは、すぐにでもできそうな「歳出削減」事業を集めたに過ぎない。
②「歳出削減」を本格的に行うためには、「施策・事業評価制度の推進」を「加速」することが必須で、2024年度から具体化する計画になっている。したがって、これからの「歳出改革」は痛みを伴う市民サービス切り捨てが本格化してくるだろう。
③持続可能な市政運営に向けて「財源創出」「市債活用」「減債基金の臨時的な活用」によって可能としているが、今後も継続する財政的余地はあるのか。厳しいとみるべきである。
4、まとめ
2023年度予算案は、「中期計画」の実質的スタートとして基本戦略に沿って第1歩を踏み出す予算になっている。しかしそれは第1歩に過ぎず、「基本戦略」を定めた目標を目指して継続すること、一貫させて「大企業のための開発優先」から「市民の命と暮らし優先」の市政に転換させられるかどうか、これからの「攻防」にかかっている。
2024年度以降の予算をめぐる自民党側の攻勢が強まることが予想される。
実績を挙げながら、第2歩、第3歩と前進するには、市民の力に依拠すること、市民自治を尊重し発展させることがカギとなる。市会での「市民の命と暮らし優先」の市政への転換を推し進めようとする会派勢力と議会外での市民運動の連携、結びつきが重要な力となる。
【重要な補足】予算の具体化過程で市民自治の観点を貫けるかどうかが極めて重要
予算配分、財政の在り方は、市政の基本的な方向を規定するが、すべてではない。ある意味でどのように執行されるか(大企業主導か、地元中小企業を含む市民主導か)が市民にとって決定的なことである。
「市民の命と暮らし優先市政」への転換を実現していくには、市民自治の力量を高め、「現場目線」の市政運営、市民自治に依拠した市政運営を求めて闘わねばならない。その角度から、若干の具体的取り組み課題を挙げる。
①山下ふ頭再開発問題
・第2回目の市民意見、事業者提案募集の結果がどのように「公表」されるか? まずは、この評価から切り込む。
・「山下ふ頭再開発検討委員会」に対して市民側がとるべき態度 については当部会名の「山下ふ頭の再開発」についての意見を述べておいた。その上で委員会の構成、運営、答申にどう反映させるかであり、市民の側の運動にかかっている。
②DX戦略の問題
・「情報の利活用促進」の名の下、市は、市が持つ膨大な量の市民の機微な個人情報を企業への提供に前のめりである。
市民には自分の情報をコントロールする権利があることを根拠に、改めて個人情報保護を徹底するよう求める。
・国が進めようとしている自治体情報の「標準化、共同化」については、これまで市政運営の必要さで集められた情報が引き続き蓄積されてきており、これを堅持すべきである。そうでなければ、DX、「利便性」を振りかざして地方自治を破壊する国のやり方を許すことになる。
③ノース・ドックへの揚陸艇部隊配備問題
・ノース・ドックの機能強化を阻止する取組みは、市民運動から労働組合、学者、都市づくり関係、経済界まで戦線を広げる必要がある。
しかし、ノース・ドックはどこにあるの?という初歩的な情報から始まって、ノース・ドックの果たす役割、その危険性など、意識状況は相当にばらつきがある。まずは、その状態を変えるための学習会、講演会など各所で持つことが緊急課題である。
以上
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